たたら製鉄

たたら製鉄

日本刀の原料は玉鋼(たまはがね)

たたらの故郷

「たたら」とは日本で古来より独自に発展を遂げてきた砂鉄を原料にした製鉄法だ。原料となる砂鉄の大量採取が可能になり、鉄の需要が高まった江戸時代後期から明治にかけては「たたら製鉄」は最盛期となった。
その日本最大の生産地となったのが中国地方の出雲。中国山地の山々は日本刀の原料となる良質な砂鉄に恵まれ、最盛期には国内生産の8割を生産していた。

たたらから誕生する玉鋼とは

現在日本でたたら製鉄の技術を守り続けているのは奥出雲町にある「日刀保たたら」だけ。ここでは毎年冬に数回、三昼夜をかけて「鉧(けら)」という鉄の塊を作る。このけらの中の良質な鉄から、日本刀の原料となる玉鋼を作る。それが日本全国の刀匠にゆきわたるというわけだ。
たたら製鉄の工程は独特で、まずは原料の砂鉄を取ることから始まる。砂鉄を含んだ山の土砂を山を崩して作った水路で下流に流し、重い砂鉄を沈殿させる「鉄穴流し(かんなながし)」という手法を使う。
さらに砂鉄を溶かすのに使う炭「たたら炭」を山から切り出して焼く。1回のたたら操業に使う炭は約10トン~13トンで森林面積にすると1ヘクタールほどの木を伐採して使用する。かつては年間60回ほど操業したというから膨大な森林面積が必要だった。
この原料とともに必要なのが砂鉄を溶かす炉。たたら製鉄では炉を壊して鉧を取り出すため毎回炉を一から作らなければならない。
炉のかぶの元釜のさらに下には「炉床」といわれる地下構造が造られていて、元釜の上に中釜、上釜を積み上げて炉が出来上がる。
作業はこの炉を木炭でめいっぱい加熱してから砂鉄と炭を少しずつ投入していく。炉の下からは鞴(ふいご)で風が送られて炉をさらに加熱する作業がおこなわれる。砂鉄と木炭は約30分おきに投入されて高熱の中での作業が三日三晩続く。
この作業を指揮するのが「村下(むらげ)」といわれる監督だ。鉧からは約半分ほどの玉鋼が取れる。取り出した鉧の塊から取り出す玉鋼の出来ばえは村下の手腕で決まるため長年の熟練が求められる。

たたら操業の歴史と工程がわかる「和鋼博物館」

日本古来のたたら製鉄も安価な洋鉄が大量に流通するようになると経営が行き詰まり、大正14年(1925年)に途絶えた。戦争拡大による軍刀需要に応えて一度は復活したが終戦、とともに廃止。だが美術刀剣の良質な材料製作とともに技術保存のため、昭和52年(1977年)に日本美術刀剣保存協会(日刀保)が奥出雲町に残っていたたたらの伝統を「日刀保たたら」として復活した。
そんなたたら製鉄の歴史と作業の工程をじっくりと見て堪能できるのが安来港に隣接する「和鋼博物館」だ。


ここには戦前から収集した資料や映像、製鉄用具などの模型が展示され、たたらの歴史に触れることができる。館内のミュージアムショップでは現代に継承された技術として「ヤスキハガネ」の製品などを見たり買うこともできる。
また、たたら道具の代表でもある炉に人力で風を送る装置「天秤ふいご」も再現されていて実際に踏板を足で踏んで体験することもできる。
博物館の小村滴水館長は「ここには実際に中国地方で使われていたたたら製鉄の一連の作業を伝える用具など250点が展示され、先人の工夫と自然の共生を実感できるたたらの総合博物館です」と語る。

和鋼博物館
● 住所/島根県安来市安来町1058番地
● 営業時間/9:00~17:00
● 定休日/水曜日(祝日の場合は翌日)
● 入館料/一般310円
● 電話番号/0854-23-2500
http://www.wakou-museum.gr.jp/

たたらの文化を色濃く残す安来の街

JR安来駅を降りると見渡せるのが安来港と十神山の光景だ。駅舎の山手には日立金属安来工場があり安来が鉄の街として栄えたことを物語っている。
江戸期から明治期にかけて鉄の積出港として北前船の寄港地として賑わった港町。かつては豪奢な鉄問屋が立ち並んでいたそうで、港に隣接する和光博物館の周辺には往年のたたら文化を色濃く伝える料亭、商家の街並みが今も残っている。ドジョウすくいの踊りで知られる民謡「安来節」もこの鉄の積出港として賑わったたたら文化の中から生まれたという。
町に点在する「割烹山常楼」「旅館荒文館」「並河家住宅」などの商家群。山常楼はいまも営業していて食事をすることができる。
和光博物館と安来港周辺の一帯はサイクリングでもまわれる散策コースにもなっている。

また安来の街から砂鉄を産出した奥出雲に向かって街道を上っていくと、たたらの女神「金屋子神」を祀る「金屋子神社」がある。ここは鉄に関わる仕事に従事する人々の守護神の総本社だ。


周辺の山々には棚田の風景が広がっていて、ここがかつての鉄穴流しの土砂が堆積した跡地であることがわかる。水路やため池を活用した土壌が良質な米の産地として再生し循環型の農業を実践している。

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